鞍馬天狗

夢寐のたわごと

譫妄(せんもう)よりの帰還

古い話だ。 鎌倉のある病院の病棟に居た。 何時ごろから居たのか、よく覚えていない。 ただ、病院のベッドで、随分長く生活していたように思う。 医者がときどきやってきたのを覚えている。 医者の顔も名前も、良く思い出せない。 彼は、男だったと思う。 中年の男だった。

 

ある日、その担当医師が「私は、転勤するんですよ。 その後の担当が、誰に成るかは分かりません」とその医者は云った。 頼りない話だ。 もちろん、そんなことは、どうでも良い。 なんとかなる筈だ。 転勤話をもち出した医者は、「私が担当する病気を扱う医者は、あまり居ないんですよ」と言っていた。 

 

恒例だったかどうか、よく覚えていないが、その日は、病室のあるフロアー(階)をウロウロと歩き回った。 窓際へ来た。 窓の外を眺めた。 付近の家々屋根が見える。 2階だな。 少し先に「さくら薬局」の看板が見える。 暫らく、眺めている内に、懐かしい感じがした。 おや、わが家の近所ではないか? そういえば、あの「さくら薬局」の看板は見慣れている! 

 

突然に「退院だ」と教えられた。 退院手続きを、誰がやってくれたのか、よく覚えていない。 その人が、手に持っていた、カルテらしいものをチラッと見たら、「精神科」という文字が目に入った。 俺は精神病?

 

何処へやら帰ってきた。 私が棲むところらしい。 仲間らしい連中が何人か居た。 食事は、共同で食うらしい。 そこから、その後、湘南鎌倉総合病院へ、時折、通うことになった。 

 

間もなく、近く(北鎌倉)の新築の共同生活施設へ移ることになった。 暫らくして、病院から移った施設で親しくなった老婆が、一緒に移ろう、と誘ってきた。 仲間の何となく少し頭が変だと思っていた奴が、先に新築施設へ移って行った。 暫らくして、移る予定だった新築施設の見学することになり、 見学に行ったが、一部建築中だった。 特段の感懐は浮かばなかった。

 

その新築施設へ移って暫くの間、湘南鎌倉総合病院へ通っていたが、ある日、担当の医者から、「病気は寛解しています」、と告げられた。 施設付きナースに、「寛解って何だ」と尋ねたら、XXさん「治った、という意味ですよ」と答えられた。 その後、私が住んでいた共同生活施設のことを「老人ホーム」と呼ぶということを知った。 キチガイ病院では、なかったのだ。