鞍馬天狗

夢寐のたわごと

ピーピング・トム

ピーピング・トムとは、今は、死語となっているが「出歯亀(デバガメ)」の英語版である。

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注:出歯亀でばがめ、もしくはでばかめ)とは、明治時代に発生した殺人事件の犯人として捕らえられた男性のあだ名、もしくはこのあだ名から転じて窃視(のぞき行為)やこれを趣味とするもの、窃視症のように病的な状態にあるものを指す。 英語では「ピーピング・トム(Peeping Tom)」という言葉が概ねこれにあたる。

単に好色な男性を指してもこのように呼ぶが、事件当時は流行語となって様々な意味を含んだ関連語も生まれた。

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やや、アナクロニズムの感があるが、老人ホーム勤務(ヘルパーの職務)は、出歯亀業務を強制する。 入居者の殆んどが、どこかに身体的(精神的を含めて)欠陥を持つ人達であるから、否応なしに、24時間の監視を必要としている。

 

同じ老人ホームでも、「有料介護付き」となると、金銭を貰っての「介護」であるから、「監視」は、業務上の必然である。 介護付き有料老人ホームは、恐らく営業上の都合、または、監督官庁の要請もあって、「自立」者、も「要支援」者も、「要介護」の者も、更には、「認知症」の者も相談の上、一緒くたに入居させるから、出歯亀もこうした色とりどりの人たちを一視同仁に(差別なく)監視する。

 

一般に、老人ホームでは、女性入居者(つまり、老婆)が多い。 中には、昔鳴らした綺麗どころの成れの果てもいる。 しかも、人間は、混浴は避けるとは言え、男女ともに、定間隔、もしくは、不定期に風呂に入る。 更にしかも、人で不足の故もあって、男性のヘルパーもいる。 別に昔鳴らしていなくとも、おなご(きたないどころを含めて)に男性「三助(さんすけ)」は、面白くない。

 

風呂どころか、24時間介護であるから就寝中も、ヘルパーたちが「密かに」各部屋を数時間ごとに、盗み見して歩く。 おまけに、ラウンジ(食堂)や風呂場には、「監視カメラ」が常置されている。 時宜を得ない新米ヘルパーは、夜中に、「カタン」とドアー開閉の音を残して、去っていく。 それでなくとも、睡眠不足に悩みがちな入居者が、暗闇の中で、「ギョロッ」とドアーを見詰めると、マンの悪い奴が目と目をかち合せ、「夜回りです」と、声まで残して去っていく。

 

私が住む老人ホームでは、「個人の秘密は大切にします」と謳っている。 この老人ホームで大切にしているのは、恐らく「建前」だけだろう。 ここでは、入居者の私事は、開け広げ(あけっぴろげ)である。 風呂場では、老婆の秘所もあったもんじゃない。 第一、各部屋には、「鍵」がない。 形ばかりの鍵はあるが、合鍵がヘルパーたちの手にあるから、「無い」も同然。 「盗まれたあ!」と叫ぶ、半ボケ老人が多いのにも、状況が整っている。

 

ピーピング・トム(出歯亀)は、人の好奇心、エロ精神、好き者や世の流れの産物というよりも、老人ホームでの生産物である。