鞍馬天狗

夢寐のたわごと

思いつき

老人ホームには、特に大きな老人ホームには、身体はまだ健康なのに、何をも自ら進んで為すこともなく、一日中、ただ退屈そうに時を過ごしている老人が多い。 そこで、思いついた。 子供の頃、母親や兄、姉に、本を読んでもらって楽しかったことを、そう言えば、紙芝居も面白く、楽しかった。

日本にも、古来から面白い話が多い。 例えば、今昔物語集、宇治拾遺物話、伊勢物語、など、今日の老人には容易には読み難い古書に、そうした面白い話が多い。 幸い、これらの書物には、現代語に書き直した物がある。 そこで、若者たちにこれらの書物の現代語版を読んで貰い、老人を集めて聞かせるという思いつきを考えた。

 

養老国の話
ある時、ある国に、70歳を超えた老人は、役に立たないので、どこか遠国へ捨てるようにとの布告が出された。 その国の大臣の一人に70歳を超えた母が居た。 この母を捨てるに忍びず、自分の屋敷の裏庭に地下蔵を作って、匿うことにした。

その頃、隣国から、厳しい要求が為された。 二匹の全く同じように見える馬を連れてきて、どちらが親で、どちらが子かを見分けよ、と要求してきたのである。 答えられなければ、攻めると脅しを掛けてきたのである。 大臣は、暫く時間を下さい。 考えた末に、お答えします、と王に述べて帰っていった。

家に帰った大臣は、ひょっとしたら、老人ならこんな難問の答えも、聞き知っているかも知れないと思って、地下蔵に隠れていた老母にきいてみた。老母はその二匹の馬の間に「餌になる枯れ草を置いてみよ。 先に貪り食うのが、子で、それを待つのが親だ」と教えた。 王宮に帰って、王にその旨を答え、事なきを得た。

ところが、隣国は、更に難問を重ねて持ちかけてきた。 一本の木を出し、どちら側が根であるか、答えよと言うのである。 この度も、大臣は、この問題を家にもし帰って、母にきいてみた。 母が言うのには、水に浮かべるがよい。
沈む方が根じゃ。というのである。 此度もまた、この難問を答えることができた。 

隣国は、こんどこそは、答えることが出来まいと、大変難しい問題を突きつけてきた。 一匹の象を連れてきて、この象の重さを測って答えよ、という難問であった。 また、大臣は裏の地下蔵を訪れて母に尋ねた。 母は、そのような問題は昔、聞いたことがある。 象を船に載せ、船が沈んだ所に印をつけよ。
次に、象の沈んだ印のところまで、象の代わりに石を積むのじゃ。 すれば、石の重さを一つづつ測り、石の重さを合計すれば、象の重さが判る、と教えた。

そのように、隣国へ答えると、隣国は、この国は恐ろしい国じゃ。 こんな恐ろしい国を攻めれば、逆に、こちらがやられてしまう、と考えて、攻めて来なくなった。

その国の王は、何故大臣が、答えを考え出す前に、その都度。屋敷へ帰るのかを訝しんで、その理由を大臣に尋ねた。 大臣は、恐る恐る、70歳を超えた老人は遠国へ捨てるようにとの、お達しでしたが、私は、母を捨てるに忍びず、裏庭に隠しております。 その母に答えを教えて貰うために、毎回、屋敷へ帰っておったのでございます、と答えた。 

その時まで、その国は「棄老国」と呼ばれていたが、王は、以後「養老国」と国名を変えよ、と布告を出したそうです。
・・・・・・・・・・・・打聞集(うちききしゅう)

(打聞集は、下巻のみが残っており、今昔物語、宇治拾遺物語の中にある)