鉄道大臣

夢寐のたわごと

悲しき自動販売機

この老人ホーム、通常、入居者は外出させない。 外出させると、行方も言わずに徘徊する認知症患者が多いからだ。 そういった理由もあって、施設内に飲料などを扱う自動販売機を設置しているが、一階に置かれたこの販売機、本当によく壊れる。聞くところによれば、この一階の販売機がよく壊れる。

理由は、一階に認知症と糖尿病の二つを患う悲しい老人が居るからだ、言う。 この老人の後見をする娘さん、自動販売機が相手かまわず、金さえ払えば食物(ジュース)を売ってしまうものだから、施設管理者へ事情を説明して、この老人には自動販売機を遣わせないでくれと頼み込んだ。

娘さんもこの男がいい年をした大人(父親)なので、僅かだがいつも少しの小遣い銭を持たせている。 他方、この男も自分なりの大人(父親)としての矜持を持っているので、自分勝手に自動販売機でジュースを買おうとする。 娘さんも、いつも傍にいるわけではないから、「それ、お父さんの体のいけないのよ!」と止めることはできない。 事情を聴かされている施設の管理者は、娘立てれば、父親立たず、父親立てれば、娘立たず、の平重盛の状態に追い込まれた。 どうしよう?

他にも利用者がいるにも拘らず、施設管理者は、苦心の挙句、苦肉の一策に考えが及んだ。 そうだ、販売機に[故障中]の札をつけよう。 そうすれば、このおっさん、文盲じゃないから、自動販売機の利用を諦めるだろう…。 

と言って、他にも、文盲でない入居者が多いから、この苦肉の策、「苦い肉」どころか、「臍(ほぞ)」を噛むことになるかもしれない。 今日現在は、まだ、「苦い臍」の話は、聞いていない。